履修について
本講義の目的およびねらい
現在の世界で主流となっている民主主義について、制度を支える思想と、制度を生みだした歴史にさかのぼって考察する。我々の知っている民主政が「可能な選択の一つ」に過ぎないこと、様々な批判が民主政の内外から加えられていることを認識したうえで、どのような態度を取るのか、それを考えるための知識を身に付けてもらいたい。
履修条件あるいは関連する科目等
特になし。
授業内容
- 1.古代民主政と民主主義の思想
- 1−1.古代の民主政治:アテネとローマ
- 1−2.民主主義をめぐる思想
- 1−3.古代民主政の崩壊
- 2.市民革命と近代民主政
- 2−1.市民革命の神話:フランスの革命
- 2−2.民主政の構築:アメリカの革命
- 2−3.代表民主政の思想:イギリスの革命
- 2−4.近代民主政の病理現象
- 2−5.民主政批判——社会主義とファシズム
- 3.現代民主政とその批判
- 3−1.リベラル・デモクラシーの思想と制度
- 3−2.直接民主政の復権——情報化・住民投票・NGO
- 3−3.共同体主義(communitarianism)
- 3−4.対話と闘争——民主主義の新たな潮流
成績評価の方法
試験による。
教科書・参考書
教科書は特に指定しない。参考書については、講義において随時指示する。
注意事項
特になし。
試験問題と採点講評
本年度は問題を講義で事前に公開し、試験自体は持込不可として実施した。解答時間は60分である。
問題:アメリカ・イギリス・フランスから一ヶ国を選択し、近代民主政における体制の特徴と問題点について述べよ。
講評:どの国を選択してもよいが、「特徴」が問われているのだから他の国あるいは民主政に一般的な性格について述べるだけでは設問に回答していることにならない。他国の性質についても前提した上でそれと異なる点を指摘することが求められている点に注意すること。そこから典型的には、アメリカであれば「草の根民主政」と多数の専制、イギリスであれば名誉革命体制とその寡頭政的性質、フランスであれば一般意志とその暴走可能性などについて論じることになろう。
不可答案のほとんどは、設問に適切に答えていないものである。典型的には、「近代民主政」における特徴が問われているにもかかわらずフランスのアンシャン・レジーム(近代民主政以前)について延々と述べるもの、逆に第二次世界大戦以降の現代における状況のみが書いてあるものなどであった。問題自体が事前に公開されている以上、知的に怠惰な学生に同情する余地はないものと考える。
そこまで問題が大きくはないが、やはり時代的な展開が適切に踏まえられていない答案も見受けられた。近代民主政の典型的な時期の特徴と、それが社会主義やファシズムの批判を受けつつ変質してきた時期の状況を明確に区別してしまうような例である。具体的にはイギリスの体制について、もっぱら選挙権拡大以降の時期について詳述してしまうようなものがこれにあたる。制度は徐々に変化していくものなので、どこが典型でどのように変化していったかという時間軸的な意識を持つことが重要である。