HOME > Lecture > 法と政治の思想(2010)

履修について

本講義の目的およびねらい

本講義の目的は、法律・政治の具体的制度へと学習を進める前に、それらを正当化する根拠であるとともに、制度・政策に関する価値判断の基準となる思想について基本的な知識を得ることにある。制度の背景にある思想を理解することで、法律・政治の全体的なパースペクティブを考えることが期待される。
具体的には「主流派」であるリベラル・デモクラシーを軸として、それに対する批判と代替的理論を紹介していく。講義題目の予定は下記の通りである。

  • 1 リベラリズムの伝統:ロック、J.S.ミル、アダム・スミス
  • 2 リベラリズムの正義論:ロールズと格差原理
  • 3 リベラリズムの発展:分配と平等
  • 4 共同体と文化:共同体論・多文化主義
  • 5 20世紀デモクラシーの現実:代表・競争・多数決、福祉国家とデモクラシー
  • 6 公と私の再定義:市民社会の可能性、フェミニズム
  • 7 ラディカル・デモクラシー:熟議民主主義、闘技民主主義

注意事項

本講義は担当教官2名(姜東局・大屋雄裕)の共同開講であり、分担して講義を行なう。教科書は使用しない。参考書・参考文献は適宜講義の中で紹介する。

試験問題

以下の3問のうち1問を選択して解答せよ。
解答の冒頭に設問番号を記入しておくこと。どの設問に対する解答か不明の答案は採点しない。

1) 個人の才能・能力は社会的・自然的な偶然の結果であるからその結果を再分配の対象にすることは許されるという見解について、論じなさい。

2) 「『市場の失敗』と同じくらい国家も失敗するし、個々人に戦場での死を強制する国家に比べれば市場の方がまだましである」というアナルコ・キャピタリズムの主張を前提として、(1)その主張を支持するか、別のどのような立場から批判するかを明らかにしたうえで、(2)その理由を述べなさい。

3) 「202X年、N市の交通制度審議会は、財政赤字の解決や交通機関の効率的な運用を理由に市営地下鉄・バスの全面民営化を求める報告書をまとめた。N市の市長は、この審議結果を受けて、翌年からの地下鉄とバスの全面民営化を宣言した。市長は、記者団に対して、親市長派が多数を占めている市議会での手続きを翌月には終えたいと話した。緊急世論調査の結果は、全面民営化政策への支持5パーセント、どちらかというと支持30パーセント、どちらかというと反対5パーセント、反対30パーセント、無回答30パーセントであった。反対派の市民が組織した[交通制度改悪に反対する庶民の声]は、10万人規模の反対デモを展開するとともに、市長との公開討論を求めている。」
以上の状況を如何に打開すべきかを民主主義の観点から論じなさい。

採点講評

1) 見解は、ロールズ・ドゥウォーキン・センら「平等主義的リベラリズム」と呼ばれる論者にほぼ共通するものなので、それをノージックなどと対比した上で、しかし個人の努力を無視するロールズのような立場にも、「努力できる環境」の存在(典型的には「文化資本」)を無視するノージックにも問題があるという論旨の立て方がもっとも典型的。そこから、是正すべき運とそうでないものの区別を主張するドゥウォーキンに話をつなげてもよい。ロールズとドゥウォーキンの違いを説明することも可能だが、対比の範囲は小さくなる。

2) 批判する場合には「平等主義的リベラリズム」の立場を取り、市場も国家抜きに成立するとは考えられないこと、国家のない状態では支配的保護会社が超最小国家に帰結するので個人にとっては(「死の強制」という観点からも)より危険になること、そもそも国家と市場のあいだでそれが強制する死の性質に差異があるかは疑問であることなどを指摘すればよい。支持する場合、企業間の武力紛争(あるいは「戦争」)があり得たとしても利害の追求によるものになるだろうのに対し、典型的には9・11後の状況に見られるように国家による紛争は何が「正義」かをめぐる絶対的な対立になりがちであることなどに言及できればよい(のだがそこまでの答案はなかったような気がする)。

参考文献リスト

講義でよくわからない部分があったり、より深く勉強したい場合には、こちらのブックガイドを参照してください。

配布プリント

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成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A (優)
24 (14.0%)
B (良)
62 (36.3%)
C (可)
65 (38.0%)
D (不可)
20 (11.7%)

これ以外に、NUPACEにより履修した学生1名、レポートで代替した学生1名がいる。