HOME > Lecture > 法と政治の思想(2009)

履修について

本講義の目的およびねらい

本講義の目的は、法律・政治の具体的制度へと学習を進める前に、それらを正当化する根拠であるとともに、制度・政策に関する価値判断の基準となる思想について基本的な知識を得ることにある。制度の背景にある思想を理解することで、法律・政治の全体的なパースペクティブを考えることが期待される。
具体的には「主流派」であるリベラル・デモクラシーを軸として、それに対する批判と代替的理論を紹介していく。講義題目の予定は下記の通りである。

  • 1 リベラリズムの伝統:ロック、J.S.ミル、アダム・スミス
  • 2 リベラリズムの正義論:ロールズと格差原理
  • 3 リベラリズムの発展:分配と平等
  • 4 共同体と文化:共同体論・多文化主義
  • 5 20世紀デモクラシーの現実:代表・競争・多数決、福祉国家とデモクラシー
  • 6 公と私の再定義:市民社会の可能性、フェミニズム
  • 7 ラディカル・デモクラシー:熟議民主主義、闘技民主主義

注意事項

本講義は担当教官2名(田村哲樹・大屋雄裕)の共同開講であり、分担して講義を行なう。教科書は使用しない。参考書・参考文献は適宜講義の中で紹介する。

試験問題

以下の3問のうち1問を選択して解答せよ。
解答の冒頭に設問番号を記入しておくこと。どの設問に対する解答か不明の答案は採点しない。

1. 市民の政治参加に関する次のような見解をどのように評価するべきか。講義内容を踏まえたうえで、あなたの見解を論じなさい。

「政治問題の複雑さや、個人の時間を占める他のもろもろの欲求、および合理的に政治的意思決定を行なうに足る情報を獲得することの困難さなどを前提として考えるならば、一般市民が理想的市民でないのもさして驚くにあたらない。個人がもっている政治以外のものに対する関心からするならば、政治活動に・・・時間と努力をさくことは、まさしく非合理的であるということになろうし、それほど善良なる市民となることに、どれだけの価値があるのかということになるであろう。」(出典・G・A・アーモンド/S・ヴァーバ(石川一雄他訳)『現代市民の政治文化』勁草書房、1974年)

2. リベラリズムに対して批判的立場を取る理論を一つ挙げ、その理論について説明した上であなたの評価を述べなさい。

3. 「公的な活動様式」としての政治について、あり得る批判を挙げたうえで、あなたの評価を述べなさい。

持ち込み許可物:

採点講評

本年度試験問題は3問のうち1問を選択して回答するものであった。各問に関する採点講評を下に示す。

2)

問題は、リベラリズムに対して批判的な立場を一つ選んで検討せよというものであった。従って、典型的には共同体論や多文化主義、リバタリアニズムなどから選ぶことになろうが、もちろんファシズムやマルクシズムといった講義では特に取り上げていない政治思想を選んでも良いし、あるいは(国際関係論における)リアリズムのように思想性・抽象性を批判するような理論に立つことも可能だろう。
しかしながら、問題文があくまでリベラリズムに対する批判的立場を選択するよう指示しており、また講義でも再三強調した通りリベラリズムとリベラル・デモクラシーのあいだには一定の距離があることを考えると、特に後者におけるデモクラティックな要素、たとえばそれが社会全体で「合意」に達することを前提しているなどといった批判は、解答としては不適切だということになる。思想としてのリベラリズムは、典型的にはロールズにおいてそうであるように、社会の基本的枠組について現実の政治過程が適切な合意に達することができないからこそ「原初状態」という仮想的な社会契約の舞台を想定したのであった。
この点を混同した答案については、おおむね一段階ネガティブな評価を行なった。つまり、仮に問題がリベラル・デモクラシーに関するものであれば「優」となる答案は「良」に、「良」となる答案は「可」に下がっている(もっとも、前者の例はほとんどなかった。この点は、優秀な答案を書く人がどのようなことに注意しているかという問題に一定の示唆を与えるように思われる)。

成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A (優)
34 (21.1%)
B (良)
54 (33.5%)
C (可)
49 (30.4%)
D (不可)
24 (14.9%)