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試験問題

以下の3問のうち1問を選択して解答せよ。

解答の冒頭に設問番号を記入しておくこと。どの設問に対する解答か不明の答案は採点しない。

1) 英米法の比較法的特徴を一つ挙げ、そのような特徴が成立した歴史的理由について述べなさい。
2) 「国王といえども神と法の下にある」というEdward Cokeの言葉についてその意義を説明し、イングランド自然法論の特徴について述べなさい。
3) ベンサムを典型とする古典功利主義の問題点をいくつか指摘し、それらが以後の功利主義においてどのように修正されたか説明しなさい。

持ち込み許可物:
外部との通信手段、生物、音響を発し又は動作に外部電源を必要とする電子機器類を除く一切の持込を許可する。最終的には担当教員が判断する。

採点講評

本年度試験問題は3問のうち1問を選択して回答するものであった。各問に関する採点講評を下に示す。

1)

特徴としては判例法主義や「厳格な先例拘束性原理」が考えられる。前者であればノルマン・コンクエスト後に成立した統治者と被治者の妥協としての「王国の一般的慣習」に基づく統治、後者であればベンサムによるコモンロー批判への反応といった側面を説明すればよい。判例法主義について、コモンローとエクイティの並存という不統一性に根拠付ける答案が複数見られたが、複数の法体系に依拠する制定法国などいくらも存在するので(典型的にはイスラム法と世俗法が並存するインドネシア・フィリピンなど)、不適切である。

2)

設問の形式から、Cokeの言葉をイングランド自然法論の特徴と結びつけて説明する必要があることをまず認識する必要がある。従って、法治主義と対比される「法の支配」の理念を語るものというだけの位置付けではまったく不十分で(絶対王政を自然法論で制約しようという話なら一般的な自然法論と変わらない)、職能団体としての法律家による支配という狙いが秘められていることから正当化原理の混在という議論に展開させる必要がある。

3)

選好形成の非独立性、効用の比較可能性、計算可能性などを問題点として指摘し、順に選好構造の操作可能性を肯定的に捉える見解、序数効用説、規則功利主義などを対応として説明すれば良い。「いくつか」となっている以上、たとえばレジュメに挙げられている問題点のすべてを列挙する必要はないし、修正点との対応を理解して説明できないのであればそもそも挙げる意味がない。また問われているのは《以後の功利主義における修正》なので、功利主義の範囲を外れる論者(ハートなど)を挙げれば理解不足が歴然としてしまうし、ミルやシジウィックなら彼らの議論のどこがどのように古典功利主義を修正しているのか説明する必要がある。これらができていない答案が非常に多く、低い評価が増えた。

不可を含む低い評価となった答案は、設問で聞かれたことに答えていないために有効な解答と認められないものが大半である。持ち込んだ資料と格闘するのはいいが、その前にどのような問題で何が問われているのかを確認するべきだろう。

成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
S
10 (13.5%)
A (優)
18 (24.3%)
B (良)
21 (28.4%)
C (可)
25 (33.8%)
D (不可)
19

※ 割合は単位取得者に対するもの。これ以外にレポートでの代替が認められた学生が2名いる。