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採点講評

本年度試験問題は3問のうち1問を選択して回答するものであった。各問に関する採点講評を下に示す。

1) 「対抗言論」法理(more speech)とその限界について述べなさい。

まずそれが「言論には言論で対抗すべき」という趣旨で、名誉毀損的な言説に対する法的救済を謙抑的に運用すべきことを主張する考え方であること、アメリカの「公人」(public figure)に影響されていることなどを指摘した上で、情報化社会における「公人」の定義問題や、プライバシ侵害のような問題言説への適用可能性などを指摘すればよい。多くの答案がこの問題に集中していたが、限界性について十分説得的に表現できていた答案は多くなかった。

2) 暗号化技術の開発・輸出を法規制することの是非について論じなさい。

切り口はいろいろあるのだが選択者がほとんどいなかった問題。そもそも論として民間の経済活動を国家が規制することの是非について論じてもよいし、国家安全保障上の理由で制限を考えるとしてもそれにどの程度の実効性があり得るのかといった問題を、実際にアメリカが法規制を断念するに至った経緯を踏まえるとか、クリッパーチップ問題と絡めて論じてもよい。

3) 以下の見解について論じなさい。

放送からの録画のうち、特にアニメーション番組に関しては、その多くは放送事業者ではない者によって製作されていますが、製作者は、放送そのものによっては製作資金を回収することはできません。製作者にとって製作資金の主たる回収源は、放送後に発売されるDVDなどのパッケージ商品です。このようなビジネスモデルにおいて、放送されたアニメーション番組が大量に私的録画されると、その後のパッケージ商品の販売に耐え難い悪影響が生じます。(……)製作者が放送後のパッケージ商品等によって投下資本の回収をはかっている映画の著作物については、私的録画による「逸失利益」の発生が顕著です。(……)必ずしも直接的な売上げ減が生じているかどうかが重要なのではありません。パッケージ商品発売後に行われる放送からの私的録画といえども、映画の著作物の経済的価値を本来的態様において享受する行為であり、そのような私的録画からは、直接的な売上げ減の発生の有無にかかわらず、映画製作者に対するフィードバックが必要であるからです。そして、そのフィードバックは、私的録画補償金によって実現するほか、現状においては適切な方法がありません。

出典は、社団法人日本映像ソフト協会「私的録画問題に関する当協会の基本的考え方について」。ポイントはいろいろあると思われるが、たとえば著作権法30条の「私的使用」についても著作物利用の対価が何らかの形で権利者に還元されるのが正しいのかどうかという著作権の例外の性質問題、テレビなどでの放映というビジネスモデルを国家・社会が強制しているわけではない場合に、一定の問題が生じたからといってそれを社会的に保障することが正当な要求として認められるべきかどうかといった問題、あるいはそもそも放送という形での著作物利用の対価は(直接的には)放送事業者から権利者に還元されるべきものではないのかといったフィードバック可能性をめぐる問題などが想定できるだろう。

成績評価に関するデータ

評価
人数 (割合)
A+
4 (12.1%)
A
8 (24.2%)
B
12 (36.3%)
C
9 (27.3%)
D
0 (0%)