「ディズニー・ボイコット」

_宗教右派の活動を中心に_

    4年 大矢麻木

序章 はじめに

一ディズニー・ボイコット決議

(一)南部バプティスト協議会

(二)ボイコットの手段と効力

(三)テキサス教育委員会によるディズニー株売却決議

ABC買収とディズニー社の同性愛保護路線

(一)ABC買収

(二)アメリカにおける同性愛の現状

(三)“Gay Days”

(四)ハリウッドと同性愛_映画「セルロイド・クローゼット」_

三ボイコットの影響

(一)ボイコットの影響

(二)他団体によるボイコット

(三)過去のボイコット運動

終章 おわりに

序章 はじめに

19966月、全米で1,600万人近い信者を持つ最大のプロテスタント宗派である南部バプティスト協議会(Southern Baptist Conventions以下SBC)が、テキサス州ダラスで開催された年次大会で、ウォルト・ディズニー社(以下ディズニー社)に対するボイコット運動の決議を行った。SBCは、ディズニーの「反キリスト的、反家庭的」傾向、特に同性愛を容認する傾向を非難している。ディズニー社が、職員の同性パートナーに健康保険を提供していること、子会社であるABCネットワーク番組の主演女優がレズビアンである事実を、番組を使い公表したことなどをボイコットの理由として挙げている。ボイコットは映画、テーマパークからABCESPNなどのテレビ局、キャラクター商品まで100以上のディズニー傘下企業を対象とされた。ディズニー社側は、「同社は家庭向けエンターテイメント供給につくしている」、「家族の価値を信奉する団体が、世界最大の家族向け娯楽企業をボイコットするのは奇妙である。」とのコメントのみを発表した。

本論文の目的は、一連の運動の中でもとくにディズニーの同性愛者保護路線に注目し、なぜディズニー社がこのような方針を採用したのかについて、1990年代の社内の動きや、作品の推移、そして外部からの批判を分析し、明らかにしたい。そしてさらに、当社の方針が今日、どの程度アメリカ国民に受け入れられてきたのか、今後の方向性はいかなるものかを、新聞記事や表面的なメッセージにとどまらず、株価の動きや献金の動向を含め、同社の内部事情に迫ることにより、明らかにしていきたい。

本論文の先行研究については、ディズニー社の内部事情に関して詳細に論じた最も新しい文献として、有馬哲夫の「ディズニー千年王国の始まり_メディア制覇の野望_」(NTT出版株式会社、2001)を挙げる。

ウォルトの生涯を書いたボブ・トマス著の『ウォルト・ディズニー』(玉置悦子・能登路雅子訳、講談社)や、ロイの脇役人生を描いた『ディズニー伝説』(山岡洋一・田中志ほり訳、日経BP社)など、多くのディズニーに関する研究は、絵に描いたようなサクセスストーリー、そしてアメリカンドリームの主人公ウォルトとロイに関する記述でおわっている。しかし本書は、ディズニー兄弟の死で始まっている。ディズニー兄弟とは縁もゆかりもなかった人々が「魔法の王国」にやってきて、衰えたこの王国を再生させる過程が描かれている。ディズニー兄弟の築いた会社ウォルト・ディズニー・プロダクションズからウォルト・ディズニー・カンパニーへ、映像制作とテーマ_パークのエンターテインメント王国が世界的メディア帝国へと変貌を遂げていく進化の過程を、外的要因、内的要因の両面から語られている。

ディズニーの変貌には、時代の変化や、社会の変化や通信テクノロジーの変化が大きく影響しているという。1990年代には衛星放送とインターネットが登場して情報革命に拍車がかかり、アメリカは1996年に63年ぶりに通信法を改定した電気通信法を制定した。この前後にメディア、情報通信、エンターテインメントなどの分野にまたがる大型企業合併が相次ぎ、これらの業界で再編成の動きが加速していった。

その一方で、人間的要素も軽視することは出来ないと強調する。この王国の変貌はいつも権力抗争や路線闘争や階級闘争や個人的確執によって彩られていた。

情報化時代の映画産業とメディア産業に起こった変化をディズニーの変貌ほど見事に反映しているものはなく、こうしたディズニー社の変身の過程を見ていくことは、1980年代から2000年にかけてのアメリカのメディア史を見ていくことにもなる、という。

 その他、ボイコットに関する先行研究については、諸団体によって数々の論文が書かれているものの、それらは完全にディズニーの考え方に反対する立場によるものが大半を占める。また、バプティストに関する研究書の中には、その起源、信条、政治的役割などが詳細に述べられており、ディズニー・ボイコットに関する記述も見られるものもある。しかし、その影響力や、ディズニーがなぜそういった方針をとったのかについての分析はなされていない。

本論文では、SBCをはじめ、プロファミリーの視点に立つ宗教右翼の諸団体の主張を追いつつ、その会員であってもボイコットに反対している者の意見などにも触れる。また「伝統的道徳観・家族観を守る使命」と、「時代を反映し、その先端を行く使命」というジレンマにかられるディズニー社の内部事情に迫ることにより、より客観的に現状を分析する。

 ディズニーのわが国における収益は、米国につぐものであるが、日本ではディズニー・ボイコット運動についてほとんど知られておらず、アメリカ研究の論文としてこれについて書かれたものは存在しない。世界最大のエンターテインメントを創出し、政治的にも多大な影響力をもつウォルト・ディズニー社と、1500万人以上の会員をもつアメリカ最大の宗教保守団体SBCとの対立を検証することは、アメリカ政治の構造を理解する上で非常に重要だと思われる。

 またディズニー・ボイコットをはじめ、同性愛に関する諸問題は、まだ日本ではあまり考えられないものが多くある。しかし、脳死問題や、セクハラ問題などがアメリカから日本に渡ってきたように、数年後には日本でも大きな問題として取り上げられる可能性は充分考えられる。今からこれらの問題に目を向けることは、大変重要であると考える。

 アメリカ大衆の伝統的価値観や夢が、これほど一箇所に集約され、しかも具体的に表現されている場所は、ディズニー社以外におそらく存在しない。アメリカという国を研究する手段として、同社をとりあげる意味は大きいと考える。

第一章 ディズニー・ボイコット決議

第一節 宗教右派によるボイコット決議

19966月、米国最大教派で約1560万人の信徒を持つSBCは、年次大会において娯楽・メディアの大手企業、ディズニーの製品の不買と娯楽施設のボイコットを信徒に呼び掛ける決議を採択した。同社が(1)同性愛社員に、医療保険補助などの手当を支給している(2)テーマパークで「ゲイ(同性愛者)の日」を認めている(3)伝統的な家族の価値に反する映画、出版物を販売していることなどを挙げ、キリスト教的な道徳感を攻撃していると批判した。この決議に対しディズニー側は「家族の価値を信奉する団体が、世界最大の家族向け娯楽企業をボイコットするのは奇妙」とのコメントを発表した。

当時大統領であったクリントン大統領は、この米国最大のプロテスタント組織の一員だが、ボイコット不参加を明言した。

 続いて八月には、ペンテコステ派最大のアッセンブリーズ・オブ・ゴッド教会(以下AOG)が、モンタナ州スプリングフィールドで開催した年次大会で、全米11、800人の教会会員にディズニーをボイコットするよう強く勧告することを決定した。ディズニー社所有のハイペリオン社が出版する十代向けの『成長するゲイ』、系列のミラマックス社による映画『プリースト』(同性愛のカトリック司祭が主人公)、テーマパーク「ディズニーワールド」で毎年開催される「ゲイの日(Gay Days)」などが同派の深刻な不満を招いた。

なおSBC年次大会では議長選挙で保守派のトム・エリフ牧師(52)が新議長に選ばれ、同性愛による結婚を非難すること、ユダヤ人への伝道を進めること、部分的中絶法案へのクリントン大統領の拒否権を非難することなども決めた。この非難の後、SBC会員のクリントン大統領は拒否権の正当性を力説した。

これらの諸団体の主張は「家族的娯楽の象徴、ディズニーともあろうものが」という批判であるが、伝統的価値観に縛られては有能な人材を確保できない。米社会の変容の中、ディズニー王国の悩みが続いている。ディズニー社ほどあらゆる市民団体の攻撃対象にされやすい企業はない。ロサンゼルス・タイムズ紙の調査では、人権運動や動物愛護の組織から過去3年間に計13件もの攻撃を受けた。その中でも目立つのは同性愛にからむ問題(5件)だ。先にも述べたように、SBCが96年にテキサス州ダラスで開いた年次大会で決めたボイコットの対象はディズニー・ランド(カリフォルニア州)やディズニーワールド(フロリダ州)、キャラクター製品の販売店、ディズニー映画や同社傘下のABCテレビ・ラジオなどであった。プロテスタント会派の中でもとくに保守的色彩が濃い同協議会は一年前から、同性愛問題でディズニー社に何度か話し合いを申し入れたが、ディズニー側が拒否してきた。

 だが、教団は4万にのぼる各地域の信徒団の寄り合い所帯で、決議には批判的な人も多い。何より、ある牧師の次の一言が、決議の拘束力の弱さを物語っている。「子供のいる家庭が、ボイコットなどできるだろうか・・・」。

SBC96年の決議以前にも一度、信者にディスニーのボイコットを求めたが、効果を上げることができなかった。やはり、米国だけでなく世界の子供に愛されているキャラクターを持つディズニー社だけに、保守的なキリスト教徒であっても、子供にディズニーランドへ行きたいとせがまれたら、ゲイにフレンドリーな企業だからダメだと言える親は少ないのだ。

 97年にSBCが打ち出したディズニー・ボイコットに対しての、米国の世論は賛否半々だ。週刊誌『USA・ウイークエンド』が電話調査などを行ったところ、十万七千六十通の回答のうち、反対が505%、賛成が495%だった。

またオンライン投票では反対71%、賛成29%と、同性愛従業員の連れ合いへの保険適用など、同性愛者への理解を示すディズニー社への反発に同調しない人が高率であった。

 ボイコットに対する反発の声としては、以下のような意見がみられる。

SBCがやっていることは、社員に対して平等に接し、すべての家族を同等に扱うよう会社に強要することだ。SBCやその牧師の子供と同様、私は自分の宗派がその道を外れているのでは、と戸惑いを感じている。というのも、SBCの会員は、1500万人いて、そこにはたくさんの家族がある。その家族のメンバーの中には、大勢のゲイがいる。そんな彼らに、キリスト教徒ではない、SBCのメンバーではない、家族の一員ではないなどと言えるだろうか。神が異性愛者を、そして同性愛者をも創ったのだ。神は我々すべてを愛している。善悪の判断の自由というのは、SBCが伝統的に掲げてきたものの一つである。そして私の判断は、すべての人、神の創造したすべてに対して平等に接する事が何より高く掲げられるべき価値であると信じることであるのだ。」

  第二節 南部バプティスト協議会

プロテスタントの宗派は数百におよぶといわれているが、その最大宗派がSBCである。政界関係者では、共和党のギングリッチ前下院議長、ロット上院院内総務らが会員であり、南部の州出身当時大統領クリントン、ゴア副大統領も民主党ながら会員になっている。

同協会は、アメリカ建国当時からあった諸派(プレスビテリアン、エピスコーパル、メゾディスト、ルーテル派等)、いわゆる「主流派教会」に対し、「ファンダメンタリスト系」とよばれる諸派の一種である。このファンダメンタリスト系の教会は、1960年代主流派に代わり、数を激増させた。ファンダメンタリズムはまた、福音伝道的(エバンジェリカル)であり、個々人が神と一対一で対話するだけではなく、人々は神の言葉「福音」を他の人にも広めようとする。

1976年の大統領選挙で、民主党候補に指名されたジミー・カーターが、SBCに属する「エバンジェリカル」であるといったことから、この言葉がひろくマスコミで使われるようになった。「エバンジェリカル」は1942年に福音主義者協会を設立し、今日ではプロテスタント主流教派とカトリックと並ぶ第三勢力となっている。この協会に加盟しているのは、30余りの小教派のほか、主流教派に属しながら個人の資格で参加しているものを含めて約300万人から400万人といわれる。そのほかに、SBCなど協会に加盟していない教派や、無所属のエバンジェリカルなど多数がいる。「1990年の各世論調査によると、エバンジェリカルの要件を満たす人はアメリカの成人のうち20_25%になる。人数で言えば、3000万人をこえる。このうち約10%がカトリック、約25%が黒人、約半数が南部に住む」といわれ、選挙のさいにもその票のゆくえが当落に大きな影響をもつ。

SBCは96年、その教義の中に「教会がキリストの導きに従うように、妻は夫の指導に従うためにある」との表現を付け加えた。教義は正式には『バプティストの信仰とメッセージ』と呼ばれるもので、1925年に制定され、63年に一部修正されて以来35年ぶりの改定であった。

家庭に関するこの規定は、聖書の教えをより明確にするためのものとし、夫妻が神の前では平等であることは強調されているものの、夫は「その家族を養い、保護し、導く」ことを求められている。妻は「夫を尊敬し、家庭を守り次の世代を養うことにおいてその『助け手』として仕えるという神から与えられた責任」がある、と言う。

また、結婚については、『一人の男と一人の女が生涯にわたって契りを結ぶ』ものと明確に規定している。

提案委員会のアントニー・ジョーダン・オクラホマ会議議長は「離婚、同性愛、妊娠中絶や虐待といったものすべてが家庭の構造を引き裂く。家庭についてはあらゆる視点からの本がたくさんあるが、聖書に立つという明確な立場に立たないできた。新規定は夫、妻、子供の役割を描いている」と語った。委員会は95年の年次総会で設立が決められ、委員選定をトム・エリフ議長に委ねたものである。

同派は、バプティスト各派の中では保守色が強いといわれる。これより先、年次総会は新議長に保守派の指導者で南東バプティスト神学校のペイジ・パターソン学長(55)を選出した。新議長もこの教義修正を支持している。

このようにSBCは最近保守的な姿勢を強めており、ジミー・カーター元米国大統領(76)200010月、同協議会からの転機を表明した。記者団に対して最近のSBCの保守傾向に対して批判し、「残念な結論だが、痛みを持って決断した。代々バプティスト教会の会員として、自分でもこのような結論に至るとは考えもしなかった。聖書には神の前で等しく人を創られたと書かれてあり、自分はその神の教会の中で、女性も男性とまったく同様にその奉仕にあずかれることは当然のことだと考える」と述べた。

第三節ボイコットの手段と効用

では具体的に、ボイコットとはどのような行動を示すのか。AFAのホームページではボイコットを行う手段として、以下の七つの項目を提案している。

  1. ディズニー社に手紙を書き、会社の方針や商品への不満を訴えましょう。そして社長アイズナーに、あなたがどのような行動にでようとしているのかを伝えてください。住所は以下のとおりです。(略)
  2. ハリウッド・ピクチャーズやタッチストーン、ブエナ・ビスタなど、ディズニー社が所有する映画製作及びビデオ配給会社をしっかりと認識(関連会社一覧へリンク)し、排除してください。
  3. 教会や牧師にディズニーの実態を知らせ、説教壇からボイコットを呼び掛けるよう促してください。またあなたの宗派に、南部バプティスト協議会やアメリカ長老派教会(Presbyterian Church in America)など、ディズニーの方針に対して強い反発を表明している団体へ参加するよう説得してください。
  4. 休日には、オーランドとフロリダのディズニーワールド、そしてアナハイムのディズニーランド以外のテーマパークを選びましょう。そしてその意向を社長アイズナーに伝えましょう。
  5. ABC放送を観る事をやめましょう。そして地方のABC支局にその理由を伝えましょう。
  6. ディズニーのアニメ映画や、ビデオに代わるものを見つけましょう。地方のビデオ販売店、又はキリスト教の本屋に、他の家族向け商品について訪ねてみてください。
  7. ディズニーチャンネルを解約し、その理由をケーブルテレビ会社に伝えましょう。

 この他、SBCなどではホームページにディズニー社宛メールのフォーマットを載せるなど、個人レベルでの行動をさかんに行うよう呼び掛けている。

第3節 テキサス教育委員会によるディズニー株売却決議

1998 年7 月、テキサスの教育委員会はディズニー商品の内容に問題があるとして、ディズニー社の株を8対4の得票差で売却することに可決した。同委員会が保有するディズニー株は、96年から97年にかけての2 年間で、2100 万ドルから4640 万ドルと、2 倍以上までにその価値を上昇させていた。共和党に支配されたこの委員会の決定は、自身の投資マネージャのアドバイスを却下し、120万のシェアのディズニー株を売却することであった。こうした会社の保有高を捨てる決断は、American Family Association of Texasを含む宗教保守勢力によるキャンペーンが起こった後に下された。「ディズニーはもはや、ミッキーマウスとドナルドダックではなくなってしまった。」「現在のディズニーは、人々の頭を吹き飛ばしている。」と語るのは、ディズニーを「ゴミくず」と評した教育委員会のメンバー、 Richard Neillであった。
 しかし教育委員会の決定は、250 億ドル以上の株式市場資本を持つディズニーに対して、財政上の影響をほとんど持たないと予測された。ディズニー株はこの決議にもかかわらず、その当日、1 株当たり 1 ドル以上の増額を記録した。
 しかし宗教保守派は、このテキサスの決定は最初のステップであり、今後さらにこうした動きが続くであろうと確信していた。イーグルフォーラムのStephanieは、
「国民は、映画における性や暴力、傷害行為、及び、宗教の偏狭 にはもはや飽き飽きしている」と語り、テキサス教育委員会の例を「パレードの先頭」であると位置付けた。
 教育委員会の議長ジャック・クリスティは、彼が1994年にディズニーの Miramax Films ユニット制作、ジョン・トラボルタ主演映画「Pulp Fiction」のクリップを観た時、自らが持つディズニー株を売ろうと確信した、とレポーター告げる。これは7個のオスカー賞に指名された映画であるが、薬使用、殺人、及び、サドマゾヒズムの場面を含んだ。しかし皮肉にも、委員会が初めてディズニー株を買ったのはその映画が公開された後であった。
AFAはまた、ディズニーに生産された映画「Chasing Amy」のクリップを教育委員会に送った。この映画には同性愛のキャラクターが登場し、性に関するフランクな議論がその特色をなした。
 しかし、教育委員会のメンバーで、当施策に反対の投票をした4 人の民主党員の1 人、Alma Allenは、これを「政治的偽善」であるとし、以下のように語った。
「私は、ディズニーの権利を剥奪するような投票はしない。実際 2 週間後の今日 、私はディズニーランドに行く予定である。私の孫たちが最も行きたがる場所がディズニーランドである以上、5人の孫をみんな連れて行こうと考えている。」
 ディズニー当局が個々の投資決定については論評することはなかったが、一方でスポークスマンのクラウディア・ピーターズは、成人向けに作られた製品が、長い間ファミリー志向の象徴とされてきたディズニーの名ではなく、Miramax のような個別のブランドの下で生産されることを強調した。
「映画『Pulp Fiction』では、世界中のどの会社の作品よりもファミリー向けの娯楽を提供しており、このようにディズニーの名のもとに制作された商品はすべて、常に全ての年齢層にふさわしいものである。」と。
 ピーターズはさらに、ここ 10 年間で 、Miramax フィルムが 110 のアカデミー賞の指名を受け、そして、30 オスカー賞を受け取ったことにも注目して欲しいと訴えた。

第二章 ABC買収とディズニー社の同性愛保護路線

 第一節 ABC買収とディズニー社の同性愛保護路線

ディズニー社の創始者、ウォルト・ディズニー(1911_66年)といえば、生涯プロテスタント倫理を強調し続けた人物であった。ディズニー作品は奔放な空想を売り物にしながらも、アメリカ的健全さを支えにしてきたはずだった。ディズニー社は従業員の服装規定などに厳格で、いまだに「カジュアル・フライデー」さえ認めない。本質的には保守的だ。それが、なぜ同性愛保護路線をとるに至ったのだろうか。実は問題になっている同性愛手当は95年10月、従業員側の3年越しの激しい突き上げの末、ディズニー社側が譲歩した産物だった。すでに傘下に入っていたABCが同手当を給付しており、折れざるをえなかったという。「中傷と闘うゲイ・レスビアン連合」(GLAAD)の副理事、リズ・トレーシーがいう。「娯楽産業界にどれほどの同性愛者がいるか、公式なデータなどありません。しかし、大半の企業が手当を支給していること自体が、われわれが有能であることを物語っている」事実、同性愛手当は七大メジャーといわれる映画スタジオがすべて給付に踏み切っている。他の業界でも大手の銀行やコンピューター関連企業も実施するなど米社会になじんだ。同性愛問題が人種や男女差別問題と同等の重みをもって語られる米社会のすう勢を「家族的娯楽の王者」も無視できない。この問題に関しディズニー本部は見解を求められ、以下のコメントをのこした。「ディズニー・ブランドが世界中の何にもましてより家族的な娯楽を創造していることを誇りにしている」

SBCは95年6月に、ディズニーに何らかの対応策を講じるよう求めたが、過去一年、ディズニーの反家族政策は強まったと主張した。とくに96年ディズニーが所有するABCテレビ番組の『エレン』の主人公がゲイであることを告白、これをABCが大々的に宣伝してから一層、反発を強めた。

第2節 アメリカにおける同性愛の現状

SBCは、ゲイやレズビアンのキャラクターの描写、特に公然とレズビアンのコメディアン 、エレン・デグナレスをキャストとしたABC 連続ホームコメディ「エレン」、及び、ゲイのカトリック司祭が別の男性と関係をもつという内容の映画『プリースト』を激しく非難する。

 アメリカはどちらかというと「同性愛に寛容な国」というイメージもある。確かにハワイ州はゲイの結婚を認めており、ディズニーだけではなく、IBMなど一部大企業もゲイの配偶者に対しても保険の適用を認めている。マラソン選手の夫がカミングアウト(同性愛者であるとの表明)しても子供のように騒ぐだけの日本に比べれば、同性愛者の権利擁護は格段に進んでいる。

 しかしその反動で、ゲイに対する憎悪もまた先鋭化した。ディズニーワールドが「ゲイの日」を行ったことにSBCが抗議し、ディズニー製品のボイコットを呼び掛けた。2000年秋には、ゲイであるとカミングアウトしていた大学生が惨殺された。彼の遺体はめった打ちにされ、牧場の柵に縛りつけられた。

大学生が惨殺された時、テレビ番組でレズだとカミングアウトした女優が、この事件をきっかけに同性愛者への憎しみを捨てて欲しいと訴えた。「私たちが自分自身でなくなることはできないのだから」、と。

第三節 「ゲイの日“Gay Days”

AFAはディズニー社をボイコットする理由として、同社の反家庭的な映画や同性愛の生活を推奨するような出版物に加え、同社が毎年6月に開かれる「ゲイの日」(”Gに対して両手を広げて歓迎している事を大きな要素として挙げている。その他の団体でも、ディズニー社が「ゲイの日」に多く関与している事に対する反発は強い。

「ゲイの日」は1990年、同性愛者団体が6月の第一土曜日を同性愛者がマジックキングダムに集結し、「赤い服を着て目立つ」(”Wear Red and Be Seen”)日に設定し、インターネットなどで呼び掛けたことに始まる。これは当初一日限りのもので、約3000人の参加者から始まったが、のちに市全体が同性愛を祝う1週間にわたるイベントへと発展し、世界中から13万人の参加者を集めるようなった。この内容は様々なテーマパークを訪れるというだけではなく、カクテルパーティーやコンサート、ウォーターパークでのパーティーなど、さまざまなイベントを含むものであるが、特にディズニーワールドへの参加者が非常に多いため、同性愛者団体はこれを「ゲイ・ディズニー」とも呼ぶ。

 ディズニー社は自社のキャラクターやロゴの保護に非常に敏感であるが、「ゲイの日」のオフィシャルホームページでは、数年来ミッキーマウスのロゴが使われていた、とAFAは主張する。またディズニー社はイベントのために、テーマパーク内のマネキン・ダンス・プレイスなど、様々な施設を提供している。

第四節 ハリウッドと同性愛_映画「セルロイド・クローゼット」_

 95年に公開された映画「セルロイド・クローゼット」ではハリウッドにおける同性愛映画の返還が描かれている。題名の「クローゼット」には二重の意味が込められている。ひとつは文字通りセルロイドでできているフィルムを保管する場所の比喩。そしてもう一つは、カミングアウトで被る、家族、友人、社会による差別と偏見からの逃げ場所の比喩の事だ。

検閲の厳しかった昔のハリウッドで、いかにして検閲の目をかいくぐり、ゲイが自己主張をしていたかを多数の映像と共に俳優や関係者が当時の背景を振り返りながら語っている。

かつてのハリウッド映画は、最大公約数の価値観に照準を合わせて来た為、米国の平均的価値観を逆なでする様な事には手を出せなかった。描いたとしても、嘲笑の対象であったり、悪役であったり、オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーン主演の「噂の2人」の様にありえざるべき汚らわしいものとして糾弾された。

このようにかつてのハリウッドで同性愛があってはならないものとして隠蔽されていた時代には、友情にかこつけてその濃密なセクシャリティを描き出すしかなかったのだが、大きな変化が現れたのがベトナム戦争以降である。

「ベトナム戦争や国家指導者の連中によってその醜い本性をさらけ出しその幻想が崩壊しつつある国家」アメリカに対して中誓を誓うのを辞めたゲイ達が自己を主張し始めたという。

ゲイを背定的に描いた初めての作品はウィリアム・フリードキンの『真夜中のパーティー』である。

同性愛は映画で描かれぬ最後のタブーで、その性質は今も余り変わっていない様に思わるが、まだまだ主流にはほど遠いものの水面下では、ゲイ映画は静かなブームとなっている。

第三章 ボイコットの影響

第1節 ボイコットの影響

1996年、SBCはウォルト・ディズニー社とその子会社すべてをボイコットするとの決議を下した。しかしこれに対し、ストックアナリストや劇場所有者、政治関係者、そしてボイコットを掲げる本人達でさえも、その影響は巨大娯楽メディアに対して取るに足らないであろうと予測した。
 発表の翌日、 ウォール街ではディズニー社の株は87.5セントの上げ幅を記録したことからもわかるとおり、この問題に経済界は関心を示さなかった。
 劇場所有者らも、大した不安は感じてはいなかった。コロンバスの社長であるマイケル・パトリックや、ジョージア‐ベース( 米国で約 2,500 のスクリーンを所有) の カーマイク・シネマズは、

「それがなにかしらの効果を持つとは思わない。協議会の代表者の平均年齢は65歳以上であり、それはディズニー映画の観衆とはあまり関係ない。彼らのような考え方は、すでに古いのでは。」と楽観した。

しかしながら、綿密に組織されたボイコットというものは、過去に何度も驚くほどの効果を発揮し、ディズニーより大きい諸団体の方針を改めてきたという事実も見逃せない。

さらに、SBCは米国の人口の約7パーセントにあたる1570 万の会員数を誇り、かなり大きな経済力を持っている。
 ここで問題となるのは、SBCの会員のうち、どのくらいの人がフィルムやテーマパーク、さらにABCテレビや雑誌などもを含むディズニー製品のボイコット運動に同調するか、というものであった。
 ボイコット決議は、年次総会に出席した約 12,000 人の代表の間での挙手投票において十分なゆとりをもって通過した。しかしこれは、約 41,000ある南部バプティストの会議を拘束しているものではない。
 ブエナパークのファースト・バプティスト教会の代表であるパストール・ウィリー・ドレイクは、SBCの少なくともの 70パーセント は、なんらかの形でボイコットに参加するであろうという見方を示した。
「ウィリー・ドレイクがやるからといって、すべてのメンバーがそれに同調するであろうと考えるほど私も無邪気ではない。しかし、年次総会での決議には80パーセント以上の賛成が得られ、投票したメンバーは全体として、SBCのかなり多く声を反映する者たちであったと考えている。したがってこの決議は、ディズニーに対して多くの財政上の影響を与えるであろう。」

さらにドレイクは、ディズニー社に代わる娯楽が増加していることにも注目した。

しかしながら、SBC以前のディズニーに圧力をかける試みは、どれもあまり効果がなかった。

95年から96年にかけての一年間、250万のメンバーを持つAssemblies of Godや、Donald Wildmonの American Family Assn(以下AFA)など、様々な保守的なキリスト教団体はディズニーに対するボイコットを提唱した。これにもかかわらず、1996 年、ディズニーテーマパークのチケット売上は12 億ドルと、過去最高のものとなっていた。

「ボイコットによって、ディズニーのような会社にほんの少しでも落ち込みをもたらす事が、いかに大変な計画であるかを、よく認識している。しかし、ボイコットは、雪玉のようなものである。我々が思うに、焦ることなく活動を続け、拡大させていくことにより、いくらか相手を傷つけることができるであろう。」AFAの副会長、Tim Wildmonは言う。

第2節 他団体によるボイコット

Concerned Woman for America (CWA)などのフェミニスト団体も、ディズニーに対してボイコット運動を起こしている。ディズニーが制作する作品が、彼らの“モラル”にそぐわないからである。

1937年にウォルト・ディズニーによって製作された『白雪姫』は、小さい男性(=小人)の家に住み、「当然の役割」として家事に励み、仕事を終えた小人らを迎え、さらに王子の登場を待つ。

ヒーローの迎えを待ち、幸せそうに家の仕事をするというてんでは、『眠り姫』、『シンデレラ』などの話も、これと非常に類似している。

女性運動が高まりをみせても、ディズニーは何ら変わろうとしていない、という批判が相次ぐ。1989年、全米大ヒットとなった映画『人魚姫』では、ヒロインは王子の気を引くために自分の声や家族など、すべてのものを犠牲にしようとする。これに対しては女性からの批判が大変多くあがり、ディズニー社は次回作『美女と野獣』には女性の作家を起用した。

このようにディズニー社の作品はさまざまな方面から攻撃を受けている。しかしこれは、同社がいかにアメリカ社会に影響力をもち、アメリカ文化の象徴いっても過言ではないほど、これまでにすぐれた作品を排出してきたが故のものでもあるだろう。

第3節 過去のボイコット運動

ところで、アメリカにおけるボイコット運動の位置付けとはいかなるものなのか。以下、ここ数年で効力を発揮したと思われる運動を例に挙げ検証したい。

実際アメリカではここ数十年間に、ボイコットによって多国籍企業が方針を修正せざるを得なくなったという例が多くある。ネッスル社は7 年間ボイコットにあった末、1984 年、第三世界諸国で乳児用調合乳を市場に出すことへのアプローチに関して、全面的な改革に同意した。
 同様に、ゼネラル・エレクトリック社に対する1986 年の不買運動は、600 億ドルもの規模をもつ会社が、その有益な核兵器ビジネスを捨てる、という結果をもたらした。

一方で、メディア関連会社に対するボイコットは、一般的にあまり有力ではなかった。これは一つに、文化的問題が生死に関わる問題に比べると、大して消費者を引きつないためであるといえるだろう。

例外として挙げられるのは、ギャングスタ・ラップ音楽へのタイム・ワーナー社の関与である。タイム・ワーナー社は1992年にリー・ティーの『ボディー カウント』を発売した際に激しい攻撃を受け、さらにインタースコープレコード社は1995年、獄舎ラベルのCDを発売し、多くの批判を浴びた。活動家 C. Delores Tucker、及び当時の教育庁長官William Bennettによる大規模な攻撃の末、巨大メディアであるタイム・ワーナー社は、最終的に インタースコープでの利益をMCA に売ることになった。

ボイコットを効果的なものにするには、コストと利益の比率を改めなければならない、と、ネッスル社とGEのボイコットを組織化したインファクトのキャンペーンディレクタ、Kelle Louaillierは語り、ディズニー・ボイコットを批判する。
 そのためには、PR問題によって企業にいわゆる「イメージ戦略」への余分な金を使わせ、既存の仕事から幹部の目をそらすように仕向けるのだ、と彼女は言う。
 これまでのところ、ディズニーの幹部達はボイコットの声に動揺しているようにはみえない。ディズニー社はSBCの決定に対して先に述べた二文の声明書のみを発行した。またインサイダーによれば、内部では潜在的なダメージを定量化しようとする試みはなされていなかったという。

宗教右派からの批判と反比例するように、ゲイ及びレズビアンのグループからのディズニー支持傾向は高まっている。「我々は、ディズニー製品を支持することにより、ディズニーの包括性に感謝しようと促している」と、National Gay and Lesbian Task Forceの広報責任者マーク F. ジョンソンは語る。

終章 おわりに

「優しさと郷愁、そして幻想と色彩と喜びのある場所」としてウォルトが目指した米国の夢ディズニーは、このように今日では、一般市民のあいだでも決していい企業イメージを持たれているとはいえない。諸団体によるボイコット運動以外にも、同社は企業のあり方に関して以下のような様々な視点から倫理的に問題視されている。

そのうちの一つとして、ディズニー社の俳優たちに対する扱いがしばしば誠実さを欠くとの批判がある。『アラジン』の大きな魅力の一つは、ランプの精の声をやっているロビン・ウィリアムズのアドリブの素晴らしさだ。ウィリアムズは自分が声優を務めて自分の子供たちを喜ばせたいということで、スクリーン・アクターズ・ギルド(俳優たちの労働組合の一つ)が決めている最低限の額、一日485ドルでこの役を引き受けた。その代わりとして、ウィリアムズはディズニー社にランプの精を演じる自分の声やランプの精のイメージ(ウィリアムズはこのランプの精は自分の姿を戯曲化したものだと考えていた)をテレビ・コマーシャルやファーストフード・チェーンなどのポスターに使わないよう求めた。ディズニー社は映画の劇場公開のときまではこの約束を守った。だが、その後新たに広告キャンペーンを行った際は守らなかった。ウィリアムズの抗議を受けて、ディズニー社はやむなくアメリカ中のバス停に貼ってあるポスターを撤去したが、ウィリアムズはすでに利用されるだけ利用されてしまったと感じた。

また、MCA/ユニヴァーサルもしばしばディズニー社非難をメディアで繰り返す事で有名だ。ディズニー社が「血に飢えた大きな野ネズミ」と呼ばれるようになったのは、ディズニー・ワールド内のMGMスタジオの建設計画を知って憤慨したシッド・シャインバーグが、1985年に『オーランド・センチネル』紙の記者へのコメントの中でこの言葉をつかったときからだ。シャインバーグによれば、MGMスタジオのアイディアは、自分たちが出資を求めるためにパラマウント・ピクチャーズに示した計画からアイズナーが盗んだものだということだ。こちらのほうは法廷に持ち込まれるおkとはなかったが、MCA/ユニバーサルがディズニー社の得意とするテーマパークの領域で最大のライヴァルであり、かつ同じ地域(ロサンゼルス近郊とフロリダ州オーランド、そして日本)にテーマパークを展開しているということもあって、ことあるごとに衝突し、衝突するたびにメディアにディズニー社非難の声明をだしている。

このように、ディズニー社がスターや同業者たちからきわめて厳しい目で見られているのは、ある程度やむを得ない。だが、それが業界の中にとどまらず、本論文で述べたように一般の市民にまで広がると大きな問題となる。一般市民はディズニー製品を買ってくれるお客だからだ。

ディズニー社はもはや「子供たちに健全な娯楽を提供する」という昔の企業イメージに後戻りすることは不可能だろう。かといって子供にも悪いイメージをもたれてしまうような現状では、やがてたちゆかなくなるだろう。ディズニー社にとって、企業イメージの改善に努力し、とくに21世紀を担う世代によい企業イメージを持ってもらうことが重要だ。

以上のような問題を抱えながらも、今のところディズニーは不動であり、ボイコットによって財政的困難に窮することは考えにくい。ボイコットをどう受け止めているか、と言う問いに対しディズニー社は、「誰も嘲笑するつもりはないが、実際にはこのようなことは全く問題ではありません。」と答える。

こうした実績が示すのは、子会社からのの収益多さにとどまることはなく、やはりディズニーというものがあまりにもアメリカ国民に深く浸透しており、いくらボイコット運動が広がろうとも、かれらが完璧にはこれを排除したいとは思っていないという事実である。

   しかしこのまま倫理的に悪いイメージが付きまとうようであると、今後の経営にも少なからず影響はでてくるであろう。「伝統的道徳観・家族観を守る使命」と、「時代を反映し、その先端を行く使命」というジレンマをどのように生きぬくのか。

同社がアメリカという一国の文化を象徴しているといっても過言ではない。

The Case Against Disney:Twenty-three reasons (and counting)

to beware of the Magic Kingdom