V 児童買春・児童ポルノ

 

A 児童買春・児童ポルノ処罰法

 

1 背景

 1996年8月、ストックホルムにおいて「児童の商業的搾取に反対する世界会議」が開催され、政府の代表者とNGO(民間人や民間団体のつくる非政府組織)の代表者とがこの会議に出席した。先進諸国の成人による東南アジア等での児童買春の急増、児童ポルノの氾濫が起きているのを背景として、NGOが中心となり、スウェーデン政府、ユニセフ(国連児童基金)が協力してこの会議は開催された。会議において、各国は積極的な取り組みが報告されているのに対して、日本ではその取り組みが不十分であることが指摘され、各国から強い批判を受けたその反省を契機として、1997年6月に国会で、新規立法に向け検討が重ねられ、1999年5月18日に「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」として成立した[i]

 

2 本法の概要

 本法は、児童買春、児童ポルノに関する行為を処罰するとともに、これらの行為の被害者となり心身に有害な影響を受けた児童を保護するための措置を定めることにより、児童の権利擁護に資することを目的としている。

 児童買春・児童ポルノ処罰法では、児童買春をした者(4条)、A児童買春の周旋をした者(5条)、B児童買春の周旋をする目的で児童買春をするように勧誘した者(6条)、C児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者、これらの目的で児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、運送し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者(7条)、D児童を児童買春や児童ポルノを製造する目的で児童を売買した者(8条1項)また1項の目的で、外国にいる児童を誘拐したり、また売買されたものをその移住国外に移送した者(8条2項)を処罰の対象とし罰則規定を設けた。また、国民の国外犯も処罰できるようになっている(10条)。

 わが国の刑法では日本国民を売買し、誘拐して海外へ移送することは処罰されている(220条)が、本法(8条2項)にあるように外国人を日本国内に移送してくることを罪とする条項はないので、本法は重要な意味を持つであろう[ii]。しかし問題点としては、本法では、児童ポルノの「単純所持」を規定しなかったことがあげられる。7条では「児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者」とあり、「単純所持」の文言は入っていない。幼児・児童を被写体にしたポルノグラフィーは、幼児・児童虐待以外の何者でもないので、ハードな刑事政策[iii]の視点から、被写体を幼児・児童にしたポルノグラフィーについては、購入・所持を含めて厳罰でもって対応し、犯罪化・処罰化に躊躇してはならないと考える[iv]

 また次に児童買春、児童ポルノに係る行為等により、「心身に有害な影響を受けた児童の保護」として、@捜査及び公判における配慮等(12条)、A記事等の掲載等の禁止(13条)B教育、啓発及び調査研究(14条)、C心身に有害な影響を受けた児童の保護(15条)、とそのための体制の整備(16条)D国際協力の推進(17条)があげられる(詳しくは109

頁参照)。

 

3 本法の定義

 

・第二条(定義)

 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。

2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又は その供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

一 児童

二 児童に対する性交等の周旋をした者

三 児童の保護者(親権を行う者、後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者

3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの

二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの

三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの

 

(1)「児童」について(2条1項)

 1項において、「児童とは、十八歳に満たない者をいう」となっている。18歳未満の者を指す用語として「児童」とするか「子ども」とするかには争いがあり、児童福祉法その他の法律において18歳未満の者を指す用語として「児童」が用いられているため、この法律もそれに合わせている。

 また児童の年齢を何歳にするか色々議論があるところだが、子どもの権利条約では、その対象となる「児童」を18歳に満たないものとすることを原則としている。児童福祉法においても、その対象となる「児童」は、18歳に満たないものとしている。これらの条約・法律の目的とこの法律の目的を考え、対象とする者の範囲も同一とすべきなので、この法律では、保護すべき「児童」を18歳未満としたと考えられる[v]

 

(2)「児童買春」について(2条2項)

 2項において、「児童買春」を、児童、児童に対する性交等の周旋をした者又は児童の保護者若しくは児童を支配下に置いている者に対し、対償を供与し、又はその約束をして、当該児童に対し、性交等をすることを定義している。

 従来の都道府県の青年保護条例では、「淫行」「わいせつ行為」「淫らな性行為」といった用語を処罰対象とし、「児童買春」は対象としていなかったが、この法律においては、現在生じている「児童買春」という社会事象に着目し、処罰対象を具体的に表現した[vi]

 以上のことを踏まえ、2項の条文中の文言の中で特に問題となるものを下記のようにを解釈していきたい。

 

a 「対償」

 売春防止法2条に言う「対償」と同じ意味で使われている。児童が性交渉をすることを反対給付としての経済的利益を言う。現金のみならず、物品、債務の免除も「対償」となり得、「対価」あるいは、「報酬」という言葉が使われないのは、「対償」という言葉に、正当な反対給付でないというニュアンスが込められているからである。また教師が生徒に試験の扱いを優遇するなどは「対償」とはいえないが、雇用を約束するような場合は「対償」に該当する場合がある。また対償は、必ずしも買春をする行為者本人が給与する必要はなく、行為者以外の第三者が児童に対償したことを知って児童と性交等をする場合も児童買春となり得る[vii]

 

b 「性交等(性交類似行為)」

 基本的には児童福祉法34条1項6号における「淫行」に含まれる性交類似行為と同義に解釈される。児童福祉法における性交類似行為とは、児童の心身に与える有害行為が直接かつ重大なもので、実質的に見て性交と同視し得る態様における性的な行為を言う。たとえば、異性間の性交とその状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫・口淫行為・同性愛行為等も性交類似行為に含まれ得る(最決昭和47年11月28日刑集26巻9号618項)[viii]

児童福祉法における淫行罪との関係

児童福祉法34条1項6号における「児童に淫行させる」罪[ix]と児童買春罪(「性交類似

行為」)との関係が問題となる。

 最近、児童福祉法における「淫行」の中の「性交類似行為」に関する判決(最決平成10年11月2日刑集52巻505頁)が出された。中学校の英語教師である被告人がその立場を利用して児童である女子生徒にバイブレーターを使用して自慰行為をするに至らせたという事案について、6号にいう「児童に淫行させる行為」とは、行為者が児童をして第三者と淫行させる行為のみならず、行為者が児童をして行為者自身と淫行させる行為をも含む行為を解するのが相当とした。「淫行させる」とは、「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為をも包含する」(最決昭和40年4月30日裁決集155巻595頁)とし、このような自らも淫行の相手方となる場合も児童福祉法34条1項6号の罪が成立を認めた。

 このように「淫行」の範囲を自慰行為のような必ずしも強制とは言えない「性交類似行為」にまで広げていいのかは疑問が残る。これは、およそ淫行が行われている状況に児童をさらすこと自体を児童福祉法が禁止していると解釈される。しかしそうなると改めて児童買春罪の存在意義が問われることになるであろう[x]

なぜなら、児童福祉法の「淫行させる」罪(児童福祉法34条1項1号)の法定刑(10年以下の懲役)と児童買春罪(4条)の法定刑(最高3年以下の懲役)を比較すると、児童福祉法の法定刑の方が格段に重いのである。自ら淫行の相手方となった場合でも児童福祉法34条1項6号に該当して、10年以下の懲役になり、経済的対価を前提とした性交類似行為は、児童買春罪にあたり、3年以下の懲役でしか処罰されないのは、明らかに不合理である。

また刑法の補充性、謙抑性の原則や構成要件の明確性の原則を児童福祉法の罰則規定にも適用するならば、本件のような「性交類似行為」は、その点でもかなり不明確でかつその範囲・程度についても不確定な概念と言わざるを得ない[xi]。また性行為を理解し、自由な意思決定によって性行為をもった青少年に対して、「少年の健全育成」としての保護を理由にその相手方を処罰するのは、あまりにパターナリスティックであり、児童の性的自己決定を全く認めない方向にいってしまう危険すらある。青少年の性に対する規制目的が青少年の保護等にとってきわめて必要性の高いものであり、その規制方法が目的と実質的関連性がある限りで許容されるべきであろう。

以上のような観点から、児童福祉法上の淫行罪と児童買春・児童ポルノ処罰法の児童買春罪との関係を合理的に説明しようとするならば、「淫行させる」という場合を、児童に対して事実上ある程度影響を及ぼしている場合に限定し、児童の健全の阻害ないしは、具体的危険性が判断されるべきである。児童が自発的に単純に淫行の相手方となる場合は、処罰対象から除外すべきであろう。このように淫行罪を限定的に解釈した上で、児童買春罪は、児童の健全育成に対する具体的危険性が比較的小さく、しかも手段の害悪性も低いような抽象的危険があるもの、特に経済的対価が前提とされているものを「児童買春」として処罰すべきだと解される。

 

・刑法上のわいせつ行為との関係

 児童買春は、刑法上の「わいせつ行為」(刑法第22章)よりも狭い概念と思われる。「わいせつ行為」とは、行為者または、その他の者の性欲を刺激興奮または満足させる動作であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと解される。(大阪高判昭和30年6月10日高刑集8巻5号649項、東京高判昭和27年12月18日高刑集5巻12号2314項)[xii]。たとえば、対償を前提として児童を単に抱きしめたり、キスをするといったような場合は、児童が13歳未満であれば、強制わいせつになるが、そのような行為は「性交等」には含まれず、本法にいう「買春」には当たらない。

 

(3)「児童ポルノ」について(2条3項)

 

a 定義

 

・定義をめぐる問題点

 @本法では、児童福祉法や特に児童の権利条約に合わせて被写体となった「児童」の年齢を「18歳に満たない者」(2条1項)としたが、諸外国では、14歳ないし16歳で線引きしているケースが多く、18歳未満という年齢設定は多少高すぎるという議論もある。しかし、義務教育か又は16歳未満の児童(女子の婚姻適齢)を使ったポルノグラフィーに関しては無条件に処罰の対象にしていくことが必要であろう[xiii]

 A本法は児童買春と児童ポルノとを同一の法律で規制しようとしているため、問題となる。16・17歳の場合、自らの意思で性的行為の相手方になる場合と自らの意思でヌード写真などの被写体となる場合を同一次元の問題として包括して良いのか争いがある。児童ポルノはその置かれる状況によってもポルノとなり得る。家族のアルバムにある、無邪気に笑った愛くるしい裸の子どもの写真もポルノ雑誌の中に置かれれば直ちにポルノチックな性質を帯びてきてしまう。その写真がポルノかどうかは、それが配置されている周囲の状況も大きな意味を持つ。しかし、このような周囲の状況を含めた児童ポルノの法的定義は極めて困難である[xiv]

B同法の「児童ポルノ」と刑法におけるわいせつ図画(175条)を比較すると、わいせつとは、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(最判昭和26年5月10日刑集5巻6号1026項)を言う。同法の2条3項1号の「ポルノ」では、「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」の描写というように、記述的定義がなされており、客観的にこのような描写だけで違法性が高いと判断される。しかし2条3項2号、3号で規定されている「ポルノ」では「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件が付き、裁判官に対して一定の価値観ないし評価的判断を要求する規範的定義が採用されている。「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という定義とわいせつの定義を比較すると児童ポルノの場合には、わいせつ概念における「徒に」という文言が入っていなく、つまり児童ポルノでは、その描写が性的に過度であることは必要ではないのである。したがって、芸術目的であっても児童ポルノとされる可能性はある。さらに「『普通人』の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」であることも必要ないので、同法にいう児童ポルノは刑法上のわいせつ物や図画などの概念よりも広く、わいせつ図画等に該当しないものであっても、本条に該当する。過度の規制に至らないように、運用上注意すべき必要があるだろう[xv]

 C同法では、「わいせつ物」という観点が強調され、「見る側」に対する規制となっており、その視点を「見られる側、被写体の側」へと転換していくことが必要である。非常に困難なことであるが、子どもポルノを性的虐待の記録として、「被写体の側」から捉えるような定義のあり方、捉え方もまた検討していく必要があるだろう[xvi]

以上のことを踏まえ、3項の条文中の文言を下記のように解釈していきたい。

 

b 「その他の物」

 例示されている写真及びビデオテープに類する様々な物を言う。すなわち何らかの有体物を記録媒体とする物である。したがって、電磁的な画像データそのものは無体物であり、本法における「児童ポルノ」に該当しない。ただし児童ポルノに係る画像データが記録されたフロッピーディスクやハードディスク、CD‐ROMなどは「その他のもの」に該当する。

 写真、ビデオテープなど視覚によって認識できる媒体が規制対象となっている。したがって小説などの文章や言葉による表現については「児童ポルノ」ではない。

 

・絵とインターネット上のわいせつ画像について

 視覚による認識できるものとして、絵は「児童ポルノ」に該当するのか規定がないので問題となる。そもそも写真やビデオは、生きた人間の描写であり、その際に児童に対して性的虐待が行われたことが明確である。しかし実在しない児童の絵については、実際に児童に対して虐待は、行われていない。そこで、絵については、実在する児童を特定可能な程度にリアルに描写したものについては、「その他」のものに該当すると解する。では、さらにコンピューターによって合成された擬似児童ポルノ(たとえば、児童の顔を成人女性の下半身と合成したもの)や成人女性を使った擬似児童ポルノ(成人女性にセーラー服を着せたものなど)はどうであろうか。このような場合も、現実に虐待された児童が存在しないために、本法の規制対象となり得ないと解する[xvii]。しかし、擬似児童ポルノと現実の児童ポルノの見分けがつかなくなったときには、どのように処罰すべきか問題である[xviii]

 

c 「視覚により認識することができる方法により描写したもの」

 単に文字や音声で描写するだけの小説や録音テープは、児童ポルノに当たらないことを示すために書かれた文言だと解される[xix]

 

d 「性欲を興奮又は刺激する」

 少年相撲の取組を撮影したものや、医学図書に掲載された治療行為を撮影したものは、含まず、このようなものを処罰から除外する。また2条3項1号には、この要件を付けていない。なぜなら、2条3項1号は性交又は性交類似行為に関わる児童の姿態であり、類似的に「性欲を興奮又は刺激する」ものと考えられるからである[xx]

 

                                 (永山 雄太)

 

 


[i] 法務省・警察庁・厚生省「児童の権利を擁護するために」時の動き12号(1999

[ii] 坪井節子「子ども買春・子どもポルノ禁止法」法学セミナー44巻9号54頁(1999

[iii] 加藤久雄『ボーダーレス時代の刑事政策』有斐閣(1999164

[iv] 加藤久雄「わいせつ犯罪と刑事政策―成人ポルノ解禁と幼児ポルノ厳禁について―」現代刑事法3巻11 

 号(200039

[v] 森山眞弓『よくわかる児童買春・児童ポルノ禁止法』ぎょうせい(200043

[vi] 森山・前掲書5 45

[vii] 園田寿『児童買春・児童ポルノ処罰法』日本評論社(199922

[viii] 園田・前掲書7頁及び、森山・前掲書5 45

[ix] 信山社編『新・児童福祉法正文』信山社(1997)84頁

[x] 園田・前掲書7 40頁

[xi] 加藤・前掲論文4 41頁

[xii] 園田・前掲書7 24頁

[xiii] 加藤・前掲論文4 42頁

[xiv] 園田・前掲書7 25頁

[xv] 園田・前掲書7 27頁

[xvi] 加藤・前掲論文4 38頁

[xvii] 園田・前掲7 29頁

[xviii]ストップ子ども買春の会/宇佐美晶伸訳「子どもポルノ―国際的視点から」『スウェーデン世界会議資料

 V』(199719頁以下

[xix] 森山・前掲書5 47

[xx] 森山・前掲書5 49