杉並区のレジ袋税(補足)

2002/07/27(修正版)
麻生良文

レジ袋税の概要

  1. レジ袋1枚につき5円の課税
  2. マイバッグ運動,エコシール
  3. 背景

以上の記述はNHKのインターネットディベートのホームページによる。

レジ袋税の問題点

1.目的が不明確

ゴミ処理施設付近の公害が問題なのか,レジ袋という特定 のゴミの量を減らすことが目的なのか,そもそもゴミ全体を問題にしている のか。

杉並区のゴミ圧縮施設の公害が問題ならば(因果関係は今のところ不明), ゴミ処理方法を改善したり,新しい処理方法を採用した施設の建設を考える べきである(この場合,公害被害と処理施設の建設費用を比べて,費用対効果 でどの方法をとるべきかを決める必要があるが)。なお,プラスティック系の ゴミ処理については,高温で焼却すれば有 害物の排出がほとんど発生しないという。ただし,高温を保つために常に ゴミを燃やしつづけている必要があるらしい(私にはこの辺の詳細な知識を 残念ながら持っていない)。どのようなゴミ処理方法が望ましいかの比較検討がまず 必要だろう。そして,それぞれの方法の直接的な費用だけでなく,有害な排 出物が発生する場合には,その費用も含めて比較しなければならない。

近隣住民の被害が比較的軽く,ゴミ処理の総量を減らすことで問題が十分に 解決できる場合があるかもしれない。その場合には,課税や罰金によってゴ ミの総量を減らすことが有効かもしれない。しかし,レジ袋だけを差別的に 取り扱う理由はない。

かりに,レジ袋の処理の際に特に有害な物質が排出されるならば(そんなこ とは無いと思うが),有害な物質を含むレジ袋に課税して,無害なレジ袋の 生産を促進させてやればよい。

2.ゴミの量自体を減らすべきか

ゴミの排出に伴う負の外部性が発生しなければ,ゴミの量自体を問題にすべき ではない。ただし,一般に人々が商品を購入する場合,ゴミの処理費用が商品 価格には含まれていない。また,人々がゴミを出す場合に,ゴミの量に応じて 処理費用を負担しているわけではない。したがって,ゴミの排出を抑制しよう とするインセンティヴは生産者側にも消費者側にはない。このため,消費者は ゴミ処理費用を無視して消費を行い,生産者もゴミ処理費用を考慮しない商品 を販売する。これがゴミの排出「過剰」を生む理由である(「大量生産・大量 消費」という言葉を使っていないことに注意)。

過大なゴミの排出を抑制し,適切なゴミ処理を行わせるためには,ゴミ処理に 適切な価格がつくことが望ましい。しかしながら,ゴミの排出時に料金が課せ られると不法投棄が増える可能性がある。そして,今度はそれを監視するため にあらたな費用がかかるかもしれない。なお,不法投棄を減少させるためには, 例えば,商品購入時に実際のゴミ処理以上の費用を消費者に負担させておいて, 正規のルートでゴミを排出した場合には差額を還元するような仕組みを作れば いいかもしれない。しかし,そうした仕組みを機能させるにも費用がかかる。 不法投棄の防止のための監視や,ゴミ処理費用の負担をどう割り当てるべきか はそれ自体難しい問題である。

3.レジ袋税の負担

杉並区内のレジ袋の年間使用量が1億7000枚,杉並区の人口はおよそ52万人なの で,レジ袋の一人あたり年間使用量は330枚ほどであり,これに1枚5円で課税さ れたとすると年間1630円の負担になる。なお,東京都の平均世帯人員は2.2人な ので(2000年),1世帯あたり年間で730枚のレジ袋を使用し,3630円の負担が生じ る(課税後もレジ袋の使用量が変わらないとした場合)。

さて,「家計調査(平成11年)」によると勤労者世帯の1ヶ月あたりの外食費を 除く食料品に対する支出は6万3545円である(これは全国平均の値であり,東京 都の平均ではないが)。これがスーパーでの支出額にほぼ等しいものと考えてみ よう。家計調査の1世帯あたりの平均人員は3.52人なので,スーパーでの支出額 は1人あたり1ヶ月で1万8000円,年間で21万7000円になる。およそ650円ごとの買 物につき1枚のレジ袋を使用していることになる(したがって,レジ袋税が完全 に消費者に転嫁されたとすると,それは0.8%の消費税に相当する)。

一方,エコシールが実施されると,買物袋持参客に2%の補助金が支給されること になる。平均的消費者が常に買物袋を持参すれば,年間で一人あたり4300円程度 得をすることになる。レジ袋税との差額を考えると,年間の一人あたり利益は 6000円程度になる(4300円+1630円=5930円)。

なお,エコシールによる補助金支出の規模だが,買物袋持参の客の割合が20%なら スーパーの総売上の0.4%(4億から5億),杉並区の見込み通りに60%なら総売上の 0.8%(9億円)の補助金が必要になる。補助金の支出とレジ袋税の税収が乖離する 可能性もある。

4.まとめ

たぶんレジ袋の使用量は減少するだろう。もちろん,杉並区外のスーパー での買物なら課税されないから,一部の人は区外で買物をして,課税され ていないレジ袋がゴミになるから,レジ袋税の効果は減殺される。

また,レジ袋が減っても他のゴミが増える可能性もある。レジ袋税は,レジ袋という 特定の財を割高にするだけで,ゴミ全般に対する課税ではないからである。逆に言え ば,レジ袋税は他の種類のゴミの排出を相対に有利にする。例えば,レジ袋を使用し ないですむように商品の包装が過剰になるかもしれない。レジ袋ではないが,数回は 使用できる非常に安い買物袋が売られるかもしれない(5円なら売れるだろう。 ただし,これもすぐにゴミになる)。 他の種類のゴミの中には,もっと処理に費用がかかったり,処理の過程で有害な物質 を生じさせるものがあるかも しれないが,レジ袋が減る代わりにこのようなゴミが増える可能性もある。さらに, レジ袋税は,ゴミに対する一般的な課税ではないから,ゴミの総量を抑制するとは限 らない。

ゴミ問題で,本当に問題にすべきことは二つある。 一つは,ゴミの排出時およびゴミ処理時の外部性の問題である。もう一つは,ゴミ処 理に費用がかかるにも関わらず,それに適切な価格がついていないために,ゴミ排出 が過大になる可能性があるという点である。後者の問題については,ゴミ処理の費 用をどのように負担させるべきか(税金か料金かなど)という観点で考えるべき問 題であろう。レジ袋税は前者の問題の 解決になるとは思えないし,また後者の問題の解決にもつながらないだろう。

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Original:2002-Mar-14; update:2002-July-27; (C)麻生良文,Yoshibumi Aso, Associate Professor, Faculty of Law, Keio University, aso@law.keio.ac.jp